るくすしのみか。独逸《どいつ》国より来朝せるベルツ[#「ベルツ」に傍線]博士にまで診察を請い。療治に愚かなかりしかど。いささか見直すところありとみしは。いわゆる返照《なかなおり》というものなりしが。勤が納涼よりかえりし宵《よ》よりにわかに容子変りきて。その翌日かえらぬ旅に赴《おもむ》きぬ。勤らのなげきはさらなり。よき人をうしないたりとて。惜しまぬ人はなかりしとぞ。されど勤はその跡を相続せしが。忌みもはてなば浜子と婚姻の式をあげさせんと。母をはじめ親戚《しんせき》朋友のかれこれといいすすむるに。勤は余義なくてありし次第を打ちあけて述べたるに。もとよりあらぬ濡衣《ぬれぎぬ》にもあらざれば。誰もしからんにはとの答えのみなれば。勤は養父が鞠育《きくいく》の恩義を忘れず。すでに華族の爵を継ぐ上は。世襲財産だけ譲り受くべきも。余の遺産は残らず浜子に渡し。心にかないたる中なればとて。さりぬべき媒《なかだち》をたのみて山中|正《まさし》に嫁《とつ》がせしめ。家に仕えし老僕|某《なにがし》を始め下女など数多《あまた》付き添わせ。近き渡りにしかるべき家屋ありしを求めて。これに住居させ。残るところなく世話を
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