ぶりに何となく心がかりのこと多く。かなたにもとかくにうしろめだき風情ありておのれをはばかるさまあるは。何ようのことわけのありてかと。心をつけし折も折。ゆくりなく耳に入りし馬丁《べっとう》車夫の噂咄《うわさばな》し。胸とどろくまで驚かれ。さてはと心づきたるに。なおさまざまのこと耳目に触れて疑いの種を生長《おいたた》しむるのみか。浜子は父の病の見とりもせで。とかくに外出《そとで》がちなるなどますます心にかなわざれば、いよいよ離縁して身を退くべしとその志を決しつつ。二三の親しき朋友には。その思うふしをそれとなく洩《も》らしたるほどなれど。さすがに幼少の時よりして、ともにそだちし筒井筒《つついづつ》。かたすぐるまでくらべこし。緑の黒髪花の顔。姿かたちもうるわしく。学問才知も人並みには立ちまさりたる浜子なれば。今さら棄《す》つるに忍びかねて。色好むとにはあらねども。拾わぬ先の珠としも思いきられず。また二つには幼少よりそだてられたる養父母の恩愛と義理にそむきがたく。独り心を苦しめしが。今は養父の大病にて。見とりにその身いとまなければ。それなりにして打ち過ぎしに。通方《みちかた》は世に国手とよばれた
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