て。ますます思い乱るる妄想《もうぞう》をやるにところなし。散歩は至極適当の療治法なりと思えど。養父の病気中には傍《はた》の思わくもあれば。ほしいままに外《と》に出《い》づべくもあらず。さるほどに浜子の部屋または勝手などに折々聞ゆる笑い声も。なかなかにかんしゃく玉の発裂《はれつ》するもととなり。ともすれば天井と睨《にら》めくらをして。にがりに苦りて言葉なし。アアこの神経というものはおそろしきものなり。折にふれては鬼神|妖怪《ようかい》の眼《ま》の当りにおそいきたるかとみれば。いつしか嬋娟《せんけん》たるたおやめの側《かたわら》に立つかと思うなど。千変万化さまざまにうつり行く。げに物思う折の現《うつつ》はまた一場の夢なりかし。ややありてすこし夢のさめしようなる風情にて。あくび二ツ三ツして。やおら立ちあがりて障子を明け。庭へ出でて花壇のまわりを三べんばかりあてどもなくあるきながら。わざと浜子の部屋のあたりをさけて。おもての方へおもむろにあゆみきたれば。馬丁《べっとう》部屋の方にあたりて。ささやきかたらう声笑う声聞えけり。下ざまのことになれざる耳には。いとめずらしくおぼえられてや。やおら立ちよ
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