けれど。
相斎「ほんとだワ」とまだあどけなき娘気の。人の心を計りかね。思わずいえばもろともに。いいはやされて今さらに。よしなきことをいいけりと。咄の絶ゆる折しもあれ。
 カチカチカチ。オヤお昼飯《ひる》の柝《たく》でしょう。サア行きましょう。(かけだす音)バタバタバタ

     第七回

 二人|曳《び》きの車は朝夕に出入りて。風月堂の菓子折。肴籠《さかなかご》などもて来たる書生体のもの車夫など。門前にひきもきらず。これは篠原子爵の邸なれど。このほどより主はよほどの重体にて。某《なにがし》とよばるるドクトルも小首をかたむくるほどなれば。家中《やうち》の混雑一方ならず。このごろ養子|勤《つとむ》が帰朝以来。「こう忙がしくってはたまらん」など。取次ぎの書生の苦情もかしまし。今日しも少しよきようなれば。と上下《かみしも》ともに心安うおぼえて。いつしかにおさんの笑い声も耳だつほどとなりぬ。
 山中はいつものごとく御看病と称《とな》えて。なにか浜子のへやにてしきりに咄しさい中なり。勤は帰朝以来何か感ずるところありて。懊悩《おうのう》として心楽しまず。机に向えばただただ神経の作用のみはげしくなり
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