りて聞かんとすれば。主の足音をしりてかけ来たる大いなる猟犬の。媚《こび》をささげて足元にまつわるを眼もて制し。小腰をかがめてそが頭《かしら》をかいなでつつ聞けば。
車夫「エエオイ。こねえだはの。おいらアほんとにむねくそがわるくっての。
馬丁「どうしたのだ。
車夫「どうしたってこうしたって。お前《めえ》のめえだがの。おめえのとこのおはねさんがの。例の後家の内へきやアがって。今きている山中というやツをさそい出して。向島《むこうじま》までおしのびという寸法で。一しょに出かけたと思いねえ。初手《しょて》はおいらア正直だからきていに思うた。後家とおつだという噂《うわさ》があるのに。敵手《あいかた》がちがっているのはへんだなと思っているとの。花時分たアちがって人通りもすくねえだろう。スルト野郎め。おはねさんの車へ相乗りと出かけて。テケレッパだろうじゃアねえか。しかたがねえ泣く子と地頭だ。馬鹿なつらアしておいらアからッ車を曳いて跡から行くと。奥の植半《うえはん》へいってお昼飯《まんま》ヨ。あんまりいめえましいから。せめて円助もせしめてやろうとおもったら。如才《じょせえ》なく先へ廻って半助よ。フーン人
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