もっているけれど。姉さんが少しも手をつけんとサ。
□「そうかあし男君ほんとか。
葦「ウウン。僕はそんなことはしりゃアしない。失敬。
○「ヤアここから別れるのか。じゃア君あすさそうゼ。
葦「ナニさそってくれんでもいい。
○□「グードバイ。
○□「君きゃつはかくしているゼおかしいやア」という声をあとに残して。チョッいまいましいという顔色。口をムグムグやりながら坂をあがって。三丁目谷のとあるうちまで一さんにかけてきて。格子をガラリバタリ。どたどたとあがる。
秀「オヤ葦男さん。今日は大そうおそかったネ。おっかさまの御命日で。お茶の御ぜんを焚《た》いたから。お肚《なか》がへったら。おむすびにでもしてあげようか。
葦「ナニ何もいらない」と帽子と弁当をほうり出す。
秀「オヤオヤいけませんネー。あたしはこのショールを一つあむと。糀町《こうじまち》の毛糸屋へいってこないではなりませんから。いつものように机を出して一遍さらっておいで。そして今におしえて下さい。
葦「アア。姉さんもう来月はおとっさまの三年になるねえ。りっぱにしたいねえ配り物でもして。
秀「だって御生前《ごしょうぜん》の御知己でお配り物でもす
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