るようなおうちがあるといいけれど。お国から出ると一昨年《おととし》去年と引き続いて。おとっ様もおっか様もおなくなりになるし。国には遠い親類もあるけれど。国へかえればおまえもあたしも。ほんとの無学文盲になるから。なんでもあたしが一生けん命になって。東京でお前をえらいものにしたいと思っていますから。そのつもりで勉強して下さいヨ。あの宮崎さんはいろいろおせわにもなるし。親切にお店《たな》ちんまでやすくして下さるから。御命日にはおはぎでもこしらえて。もっていってもらおうと思っています。
葦「アア。そうして宅《うち》の公債証書はどのくらいあるノ。
秀「そうネー。千五百円ばかりあります。もっともおっかさまがお死去《なくなり》なすった時。おとむらいだのなんかによっぽどつかいましたが。もうもうあればかりはそっととっておいて。お前もあたしも身のかたまる時の大事な資本です。
葦「だけれどネねえさん。僕はもうじきに大学の官費生にはいるから。もう三年ばかりのところ。あのお金を出してつかって。姉さんも塾にはいッて。二人とも勉強した方がいいじゃアないか。
姉「イイエそういうけれど。今つかってしまっては。せっかくお
前へ
次へ
全69ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 花圃 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング