らん。年ごろはおのおの十五ばかりなる二三人の少年。一人は白き帆木綿《ほもめん》のかばんをこわきにかい込み。毛糸織りの大黒頭巾《だいこくずきん》を戴《いただ》きたる。身柄いやしとはみえねど。他の二人にくらぶれば。幾分か麁末《そまつ》なるところあるがごとし。少ししまがらのはでに過ぎたるめんめいせんの綿入れも。あかづきたとにはあらねど。つぎめ肩のあたりにしるくて。随分きからしものとみえたり。
△「君きょうのレッソンはデフィガルトだったねえ。
□「アーだけれど僕は昨日ブラザアに下読みをしてもらったから。すこぶるイージーだったゼ。
○「僕もおやじにしてもらったヨ。松島君はだれも下読みをしてくれてがないから。どうしても講堂じゃア出来ないけれど。そのわりにゃア試験に好結果を得るから希代《きたい》だヨ。
□「松島君のうちゃア姉さんばかりでよく月謝に困らないネー。どこから金が出るのだ。
○「それやアあし男《お》くんの姉さんが。なかなかえらいもんだっサ。この間僕の父《おやじ》が一番町の宮崎さんへいったら。あっちの長屋にお秀という娘があるが。毛糸編みの内職をして弟の学費に充《あ》てるといったとサ。公債証書も
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