母は元よりの田舎《いなか》そだちにて。一と通りの読み書きさえもおぼつかなきゆえに。浜子はいとど見落しつつ。教育なき女子は仕方なしなどと。口に出《いだ》していうほどなれば。もとよりそのいうことをきくべきようはなし。されば一家の内にありては。浜子はわれ一人のごとくふるまいおるも。誰一人とがむるものなければ。こころあるものはひそかに爪《つま》はじきしてそしりあいしとかや。
中働き下女「オヤお前はどうしたのだ。まだお嬢様のお帰りのないのに。そんなに寝そべってサ。
下女「ナニもう十二時ではございませんか。男でさえそう夜ふかしはしませんのに。なんぼだってもネ。
中働き「またそんなことをおいいだ。殿様がお聞きならじきニ大眼玉だヨ。西洋というところでは。夜会では夜明かしになるのはあたりまえのようなものだから。娘の子なんぞは朝はいつでも十一時か十二時まではおきないと。ふだんおっしゃッて。日本もはやくそういう風俗にしたいなんどと。おっしゃッてではないか。
下女「それでもどこのうちもそうならいいけれども。こなたなどでは夜おそいばかり。朝はやっぱりお隣やお向うでおきる時分にはおきなければならないから。ツイねむ
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