》の鉢で、まわりに綺麗な人物が描いてありましたが、それをきらきらした金の鉢にしてしまったのです。
 そのうちにメアリゴウルドが、しぶしぶと扉をあけて、目にエプロンを当てたまま、まだ胸も張り裂けるばかりに泣きじゃくりながらはいって来ました。
『おや、どうしたの、姫や!』とマイダスは叫びました。『このお天気のいい朝に、一体どうしたことじゃ?』
 メアリゴウルドは目にエプロンを当てたまま、手をさし出しましたが、その手にはマイダスが今しがた金にしたばかりの薔薇の一つがありました。
『美事《みごと》じゃ!』と父は叫びました。『してこの大した金《きん》の薔薇の何処が気に入らなくて泣くのかね?』
『ああ、お父さま!』と姫はすすり泣きのうちにも、出来るだけはっきりと答えました。『これ美《うつく》しかあないわ、こんなきたない花ってないわ! あたし着物を着るとすぐに、薔薇を摘もうと思ってお庭へ駆けて行ったのよ。だって、お父さまは薔薇がお好きでしょ、あたしが摘んだのは余計にお好きでしょ。だのに、まあ、まあ! どんなことになっていたと思って? とてもひどいことになっちゃったのよ! あんなにいい匂《にお》いがし
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