ルウッドの玄関
       ――「ゴーゴンの首」の話の前に――

 天気のいい、秋の或《あ》る朝のこと、タングルウッドという田舎のお屋敷の玄関先に、背《せ》の高い青年を取りかこんで、愉快な子供達の一群が集まっていた。彼等は木の実拾いに出かけることになっていたので、丘の斜面から霧が晴れ上がって、お日様が野原や牧場の上一杯に、それから、色とりどりに紅葉した森の奥まで、小春日のあたたかさをふりまいてくれるのを、今か今かと待っているのであった。この美しい、気持のいい世界の様子を更に引立てて見せる上天気のうちでも、今日はまた飛切りの上天気になりそうだった。しかし、今のところ、霧はまだ谷間の長さ一杯、幅一杯に立ちこめて、お屋敷はそれに浮くように、なだらかに盛《も》り上がった丘の上に建っているのであった。
 この白い霧は、その家から百ヤードとも離れないあたりまで迫っていた。それから先はすべて霧にかくれて、ただ見える物とては、あちらこちらに頭を突き出して、霧のおもてと一しょに、朝の陽に美しく照らし出されている赤や黄色の樹の天辺《てっぺん》だけだった。南の方、四五マイルはなれて、モニュメント山のいただ
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