とでもあれば、それが本当の金であって、彼の金庫の中へ大切にしまっておくことが出来たらどんなにいいだろうと考えるのでした。また、メアリゴウルドが、きんぽうげやたんぽぽの花束を持って、彼の方へ駆け寄って来る時には、彼はいつも、『へん、つまらない、姫や! もしもその花束が見かけ通り本当の金だったら、摘む値打があるんだがね!』と言うのでした。
 そのくせ、もっと若い時分、まだ彼がそんなにお金《かね》ほしさの気違いになり切らないうちは、マイダス王も大変草花に趣味を持っていたのでした。彼は花園を造って、そこには誰も今までに見たことも嗅いだこともないような、大きな、美しい、匂いのいい薔薇が植えてありました。その薔薇は、マイダスがいつもそれを眺めたり、匂いを嗅いだりしながら何時間も過ごした時と同様に、大きく、美しく、匂いもそのままに、今もその花園に咲いていました。しかし今では、彼が仮にそれをちょっとでも見るとすれば、もしもその数え切れない程の花びらの一つ一つが薄い金の板で出来ているとして、この花園がどれ位の値打になるだろうと勘定して見るために過ぎませんでした。それからまた、(彼の耳は驢馬のようだったな
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