ました。この王様には、一人の小さな王女がありましたが、その王女のことは僕のほかに知っている者はなく、その僕でさえ、王女の名はつい聞きもらしたか、或は聞いたにしても、すっかり忘れてしまいました。だから、小さな女の子には妙な名前をつけることの好きな僕は、その王女を仮にメアリゴウルドと呼んでおくことにしましょう。
 このマイダスという王様は、世の中の他の何よりも金《きん》が好きでした。彼が自分の王冠を大切に思うのも、主《おも》にそれが金で出来ているからでした。もしも彼が何か金以上に、或はほとんど金と同じ位に、愛していたものがあるとすれば、それは彼の足置台のまわりで楽しく遊ぶただ一人の姫でした。しかし彼は姫を可愛く思えば思うほど、一層お金《かね》が欲しくなるのでした。彼はおろかにも、彼がこの可愛い姫のためにしてやれる一番いいことは、この世が始まって以来、まだ積まれたこともないような、山吹色の、光り輝く金貨の大きな山を、彼女に遺《のこ》してやることだと考えました。そんなわけで、彼は彼の頭と時間との全部を、この一つの目的のために費しました。彼はふと日没の金色の雲に目をとめて、しばらくそれに見入るこ
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