話をして聞かせること以上に好きなことがあるかどうかは疑わしいということである。だから、クロウヴァやスウィート・ファーンやカウスリップやバタカップや、その他彼等の仲間の大部分が、霧の晴れ上がるのを待つ間、何かお話をして頂戴《ちょうだい》と彼にせがんだ時、彼の眼が輝いたことは読者も想像出来るだろう。
『そうよ、ユースタス従兄《にい》さん、』と、笑ったような眼の、鼻がちょっと天井を向いた、十二歳になる利口な少女のプリムロウズが言った。『あなたがよくあたし達を根負《こんま》けさしてしまうようなお話をして下さるのに、朝ほどいい時はたしかにないことよ。一番面白いところへ来て、いねむりをしたりなんかして、あなたに怒られる心配がないんですもの――小さなカウスリップとあたしとは昨夜《ゆうべ》そうだったでしょ。』
『意地悪のプリムロウズ、』と、六つになるカウスリップが叫んだ。『あたし、いねむりなんかしなかったわよ。ただ、ユースタスにいさんがお話していることが見えるかと思って、目をつぶっていただけよ。にいさんのお話は、夜聞いてもいいわ。だって、寝てからその夢が見られるんだもの。それから朝だっていいわ。その時
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