小春日になることだろう! 子供達は勢よくバスケットを取上げて、飛んだり跳ねたり、思いきりはしゃいだり、ふざけたりしながら出発した。一方|従兄《いとこ》のユースタスは子供達の思い思いのはしゃぎ方のまだ上手《うわて》を行って、いろいろ変ったふざけ方をして見せたので、子供達も、とてもその真似は出来ないと諦めてしまった位で、立派にこの一行の首領たる資格を証明したわけであった。そのあとからは、ベンという立派な老犬がついて行った。ベンは動物としては珍らしいくらい立派な、親切な犬だったが、どうやら、このおっちょこちょい[#「おっちょこちょい」に傍点]のユースタス・ブライト以上の監督なしで、これらの子供達を親達の許《もと》から離れさしては、自分の責任になるとでも感じているらしかった。
[#改丁]

    シャドウ・ブルック 
       ――「何でも金になる話」の前に――

 お昼に、子供達の一行は、或る谿間《たにま》に集まった。その底の方を小さな谷川が流れていた。谿は狭くて、その両側が、川の縁《ふち》から急な斜面になっていて、樫や楓まじりに、主として胡桃《くるみ》と栗の木とが深く茂っていた。夏の頃には、小川の両岸から突き出して互に入りまじった沢山の枝が、ぎっしりと、昼も暗いほどに深くしげっていた。蔭谷川《シャドウ・ブルック》の名は、そこから来ているのである。しかし、この奥まった場所へも秋がしのび込んで来た今では、小暗《おぐら》い青葉もすべて金色に変って、谿間に蔭を落すどころか、本当にそこをぱっと明るくしていた。曇った日でさえ、その明るい黄葉のところは、日の光が照り残っているように見えたであろう。そしてまた、川の床《とこ》にも縁にも一杯に、沢山の黄葉が落ちて、日の光をばらまいたようだった。こうして、夏もここで涼んで行ったかと思われる小暗《おぐら》い谷蔭《たにかげ》が、今では何処にも見られないような明るい場所になっていた。
 そうして金色になった水路を伝って流れる谷川は、この辺でちょっと淀《よど》んで、溜《たまり》のようになっていて、その中には※[#「魚+條」、第4水準2−93−74]魚《やなぎばえ》がすいすいと泳ぎ廻っていた。流れはそれからまた速くなって、湖へ行き着くのを急ぐもののようであった。そのうちに、川幅一杯に根を張った木があって、その根にぶっつかった水は、もんどり打って、ちょっと行きどころを忘れたようにとまどいした。そうして不意を喰らった谷川が、大袈裟に立てている水の音を聞いていると、おかしくなる程だった。それからは、どんどん流れて行きながらも、まるで迷路へはいってしまって独り口でも利いているように、川のささやきは止まなかった。思うに、暗い筈の谿がこんなに明るくはなっているし、その上、沢山の子供達がおしゃべりをしたり、騒ぎまわったりしているので、川もびっくりしたのであろう。とにかく、そんな風にして、川はどんどん谿間をくぐって、湖水の中へと注《そそ》いでいた。
 ユースタス・ブライトとその小さな仲間達とは、このシャドウ川の谿で昼食《ちゅうじき》をした。彼等はタングルウッドからうまい物をどっさりバスケットに入れて持って来て、それを木の切株や、苔むした木の幹の上にひろげて、愉快に騒ぎながら、とてもおいしくいただいた。それがすむと、みんながっかりしてしまった。
『ここで休んで、ユースタスにいさんに、また何かいいお話をしてほしいなあ、』と子供達の幾人かが言った。
 従兄《カズン》ユースタスだって、当然、子供達同様|草臥《くたび》れていた。というのは、この楽しかった午前中に、彼はいろいろと離技《はなれわざ》を演じて見せたのだから。ダンデライアンやクロウヴァやカウスリップやバタカップなどは、パーシウスがニンフ達から貰ったような、翼の生えたスリッパを、ユースタスが履いているのだと、も少しで本当に思い込むところだった。実際この学生は、今し方まで地上にいたかと思うと、たちまちにして胡桃《くるみ》の木の天辺《てっぺん》に上っているようなことが度々《たびたび》あったのだ。すると今度は、胡桃の大雨をばらばらと子供達の頭の上に降らして、彼等は大急ぎでそれをバスケットの中へ拾い集めるのであった。つまり彼は栗鼠《りす》か猿かのように飛び廻ったあとなので、今度は、黄色い落葉の上に身を投げ出して、ちょっと休みたい様子だった。
 しかし子供というものは、他人がくたくたに疲れていたって、情《なさけ》も容赦もあるものではない。もしも一息でも吐《つ》く息が残っていれば、それでお話をしてくれとせがむのである。
『ユースタスにいさん、』とカウスリップが言った、『ゴーゴンの首のお話はとても面白かったわ。あれに負けない位のお話を、も一つお出来になりそう?』
『出来るよ、君、』とユー
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