れて、えらいポリデクティーズ王が着座していました。王様や顧問官や廷臣や人民は、みんな熱心にパーシウスの方を見つめていました。
『その首を見せろ! その首を見せろ!』と人々は叫びました。彼等の叫びには、もしもこれから出して見せる物が彼等を満足させる程のものでなかったら、パーシウスをずたずたに引裂きかねないような烈しさがありました。『蛇の髪をしたメヅサの首を見せろ!』
 若いパーシウスは、悲しいような、気の毒なような気持になりました。
『おう、ポリデクティーズ王様、』と彼は叫びました、『そして大勢《おおぜい》の方々《かたがた》、私はあなた方にゴーゴンの首をお見せすることは、ひどく気がすすまないのです!』
『ああ、この悪党の卑怯者!』と、人々は前よりもはげしくわめき立てました。『あいつはわれわれを馬鹿にしてやがる! あいつはゴーゴンの首なんぞ持っていないんだ! もし持っているんなら、われわれにそれを見せろ! でないとお前の首をもらって、フットボールにしてしまうぞ!』
 いけない顧問官達は、王様に耳打して、悪い智恵をつけました。廷臣達は一斉に、パーシウスが彼等の王様であり主君である陛下に対して不敬を敢てしたと呟きました。そして、えらいポリデクティーズ王自身は、手を振って、威厳のある、きびしい、太い声で、わが身の危険も知らずに、その首を出して見せよとパーシウスに命じました。
『わしにゴーゴンの首を見せよ。さもなければお前の首を打ち落すぞ!』
 それを聞いて、パーシウスは溜息をつきました。
『今すぐに、』とポリデクティーズはまた言いました、『でなければ命がないぞ!』
『では、お目にかけましょう!』とパーシウスは、喇叭を吹き鳴らしたような声で叫びました。

 そして彼がメヅサの首を、さっと差上げると瞬《まばた》きをする暇もなく、悪いポリデクティーズ王と、いけない顧問官達と、獰猛な全人民とは、単に王とその人民との群像でしかなくなっていました。彼等はみんな永久に、その瞬間の顔附と姿勢とのままで、固まってしまったのです! 恐るべきメヅサの首を一目見ただけで、彼等は白い大理石になってしまったのです! そこでパーシウスは、またメヅサの首を袋に入れて、もう悪いポリデクティーズ王をこわがる必要のなくなったことを知らせに、なつかしいお母さんの許《もと》へ急ぎました。
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    タングルウッドの玄関
       ――話のあとで――

『大変面白いお話じゃなかった?』とユースタスは訊いた。
『ええええ、面白いお話だったわ!』とカウスリップは手をたたいて叫んだ。『そしてあの、仲間で目が一つしかない、おかしなおばあさん達なんて! あたしそんな不思議なことって今まで聞いたことがないわ。』
『でも、そのおばあさん達がやりとりしていた一本の歯のことなら、』とプリムロウズが言い出した、『別に驚くほどのことはないわ。それは義歯《いれば》だったのよ。しかし、にいさんはマーキュリをクイックシルヴァにしてしまったり、また彼の姉妹の話を入れたりなんかして! あんまりおかしいじゃないの!』
『じゃ、あれは姉妹じゃなかったのかね?』とユースタス・ブライトは訊いた。『僕それに早く気がついていたら、彼女を梟なんか可愛がって飼ってるようなお嬢さんに仕立てるんだったなあ!』
『あら、それでも、あなたのお話で霧が晴れちゃったらしいわ、』とプリムロウズは言った。
 実際、その話がつづけられているうちに、野山から霧はすっかり消え去っていた。彼等の前に繰りひろげられた景色は、この前に見た時と方角一つ違っているわけでもないのに、まるで新しくつくり出されたもののような気がするほどだった。半マイルばかり先の谷間の窪《くぼ》に、美しい湖水が姿を見せて、その岸辺の林と、向うの山々の頂とをくっきりと映していた。その水面は鏡のように静かに光って、どこにも微風《そよかぜ》の吹くあとさえ見えなかった。その向う岸には、殆ど谷間を横に仕切ったように、ながながと寝そべったような恰好のモニュメント山があった。ユースタス・ブライトはその山を、波斯《ペルシャ》風のショールにくるまった、首のないスフィンクスに譬えた。そして実際、その山の木々《きぎ》の秋の葉は、とても美事で、色彩の変化に富んでいたので、波斯《ペルシャ》ショールの譬えも決してその現実を誇張したものではなかった。タングルウッドと湖水との間の低地の、こんもりとした木森《きもり》や林の縁廻りなどは、山腹の木の枝葉《えだは》よりもひどく霜を受けたと見えて、大抵は金色か焦茶色に紅葉していた。
 こうした眺め一杯に快い日の光がさして、それにまつわるかすかな靄《もや》のために、何とも言えない柔味《やわらかみ》とやさしみとを帯びていた。おう、今日こそどんなに気持のいい
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