い。彼等にはその方が向いているんだから。そして、三人のうちの一人が、その目を或る時間の間使うと、それを眼窩《めのあな》からはずして、次の番に当った姉妹《きょうだい》の一人に渡す。するとその一人が、すぐそれを自分の頭に嵌《は》めて、明るい世間を見て楽しむというわけなんです。だから、三人の白髪の婆さんのうち誰か一人だけには物が見えるが、ほかの二人は真暗闇《まっくらやみ》だということ、それから、その目が手から手へと渡されているちょっとの間は、この可哀そうなおばあさん達の誰もが、ちっとも物が見えないということが、すぐ分るでしょう。僕は今まで、いろいろ変ったことを沢山聞きもし、また自分で見たことも少なくありません。それにしても、みんなで一つの目から覗いているというこの三人の白髪婆さんにくらべることが出来るほど不思議なことは一つもなかったと思います。
パーシウスもやっぱりそう思ったのでした。そして、どうかすると、彼の道連れが彼をからかっているのであって、世の中にそんな婆さん達なんてあるものかと考えたほどでした。
『わたしが本当のことを言ってるかどうか、今に分るよ、』とクイックシルヴァは言いました。『耳をすまして! 静かに! シッ、シッ! さあ、来たぞ!』
パーシウスは一心に夕闇をすかして見ました。すると、果して、あまり遠くないところに、三人の白髪婆さんが目につきました。よほど暗くなっていたので、彼等がどのような姿をしているかは、よく見えませんでしたが――それでも、長い白髪だけは分りました。そして、彼等がだんだん近づいて来るのを見ると、彼等のうちの二人は、その額《ひたい》のまん中に、空《から》っぽの眼窩《めのあな》だけがあいているのでした。しかし、三人目の姉妹の額のまん中には、たいへん大きな、ぎょろぎょろした、鋭い眼がついていて、それがまた、指輪についた大きなダイヤモンドのように、きらきらしていました。その眼があまりきつそうなので、真暗《まっくら》な夜中《よなか》にでも、昼間と同じようによく見える力をそなえているに違いないと、パーシウスは思わずにはいられませんでした。三人の眼の視力を熔《と》かして、それを一つに集めて出来上ったのがその眼です。
こうして彼等は、大体のところ、まるで三人一しょに見ているのと同じような具合に、楽《らく》に歩き廻るのでした。ちょうど額にその眼を嵌めている者が、その間中、鋭くあたりを見廻しながら、他の二人の手を引いて歩くのでしたが、その目附があまりきついので、パーシウスは彼とクイックシルヴァとが隠れている深々《ふかぶか》と茂った藪まで突き通して見られやしないかと、びくびくものでした。いやどうも、そんな鋭い目の届くところにいるのは、本当に恐しいことでした。
しかし、彼等がその藪まで来ないうちに、三人の白髪婆さんの一人が口を切りました。
『もし! スケヤクロウさん!』と彼女は叫びました。『あんたは十分長く見たじゃないか。もうあたしの番だよ!』
『もうちょっとの間、あたしに借《か》しといておくれ、ナイトメヤさん、』とスケヤクロウは答えました。『あの茂った藪の蔭に、あたし何かちらっと見えたような気がするからさ。』
『へん、それがどうしたっていうの?』とナイトメヤはすねたように言い返しました。『あたしには、あんたのようにたやすく茂った藪の中が見えないとでもいうの? その眼はあんたのものでもあり、あたしのものでもあるんだよ。そしてあたしはあんたに負けない位、その眼の使い方を知っている。いや、どうかすると、もっと上手かも知れない。どうあっても、すぐにちょっと見せて貰わないと困るよ!』
しかしこの時、三人目のシェイクヂョイントという姉妹が、ぶつぶつ言い出しました。彼女の言い分は、彼女が見る番だのに、スケヤクロウとナイトメヤとが、いつでも二人きりで眼を持っていたがるというのでした。この口論をやめるために、スケヤクロウ婆さんは、額から眼をはずして、それを手に持って差出しました。
『どちらでもお取りよ、』と彼女は叫びました、『そして、このくだらない喧嘩を止してよ。あたしは、まあしばらく真暗闇《まっくらやみ》を楽しみましょう。でも、はやくお取りったらさあ。でないと、あたしがまた額に嵌めてしまうよ!』
そこで、ナイトメヤとシェイクヂョイントとは、二人とも手をのばして、スケヤクロウの手から眼をひったくろうとしてさぐり廻しました。しかし二人とも同じようにめくらですから、スケヤクロウの手の在処《ありか》が容易に分りません。スケヤクロウも亦、今はシェイクヂョイントやナイトメヤと同様真暗闇ですから、眼を渡そうにも、すぐにはどっちの手にも出くわさないのです。こうして(君達利口な子にはすぐ分る通り)これら三人のおばあさん達は、おかしな風にまごつ
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