からさして、陰気な夕立雲を背景として彼の姿を明るく照らし出しているのが、また見えて来ました。彼の頭は夕立よりもはるか上の方にあったので、髪の毛一筋にも、雨のしずくはかかっていませんでした!
巨人はハーキュリーズがまだ海岸に立っているのを見ると、彼にむかって、また怒鳴り出しました。
『わしはこの世で一番力の強い巨人アトラスじゃ! そして、わしは空を頭の上に乗せているのじゃ!』
『そうのようだね、』ハーキュリーズは答えました。『ところで、君は僕にヘスペリディーズの庭へ行く道を教えてくれないかね?』
『そこに何の用があるじゃ?』巨人は訊きました。
『僕は、いとこの王のために、金の林檎を三つ取りたいんだ、』ハーキュリーズは大声で言いました。
『ヘスペリディーズの庭へ行って、金の林檎をもげる者は、わしのほかに誰もない、』巨人は言いました。『この、空を持ち上げているという小仕事さえなければ、わしが海を五足《いつあし》か六足《むあし》で渡って行って、それをお前に取って来てやるんだがなあ。』
『それはどうも御親切に、』ハーキュリーズは答えました。『そして、君は空をその辺の山の上にちょっと載《の》っけておくというわけには行かないのかしら?』
『それほど高い山が一つもないんだ、』アトラスは、首を振りながら言いました。『しかし、もしもお前があの一番近い山の上に立てば、お前の頭はどうかこうかわしの頭と同じ高さになるだろう。お前はいくらか力のある男らしいな。わしがお前の使いをしてやる間、わしの荷物をお前の肩に乗せていてくれたらどうじゃ?』
よく覚えていてほしいんですが、ハーキュリーズは大した力持でした。そして、空を支えるには、大変な筋力が要《い》りましたが、それでも、誰か人間のうちでそんな芸当が出来そうな者があるとすれば、彼こそその人でした。それにしても、あまりむずかしそうな仕事なので、彼は生れてから初めて、二の足を踏みました。
『空って大変重いかしら?』彼は尋ねました。
『さようさ、はじめのうちは、別にそんなでもないね、』巨人は肩をすぼめながら答えました。『しかし、千年も持っていると、多少重くなって来るね!』
『そして、君が金の林檎を取って来てくれるのに、どれくらい時間がかかるだろう?』勇士は尋ねました。
『ああ、それはちょっとの間で出来るんだ、』アトラスは叫びました。『わしは一足《ひとあし》が十マイルか十五マイルだ。だから君の肩が痛くなり出さないうちに、あの庭へ行って、また帰って来るよ。』
『それじゃ、まあ、』ハーキュリーズは答えました、『僕はあの、君のうしろの山に登って、君の荷物を持っててあげよう。』
実際のところ、ハーキュリーズは親切な心の持主だったので、こうして一度散歩に出る機会をあたえてやれば、巨人に対して大変いいことをしてやることにもなると考えました。その上また、単に百の頭の有《あ》る竜を退治るというだけの平凡なことよりも、空を持上げたといって自慢することが出来れば、自分自身の名誉のためには一層たしになるだろうと思いました。そこで、それ以上何も言わないで、空はアトラスの肩から、ずるずるっと、ハーキュリーズの肩へ移されました。
それが無事にすむと、巨人はまず第一に、のびをしました。その時の彼がどんなに大した見ものだったかは、君達も想像出来るでしょう。次に、彼は一方の足を、そのまわりに生えた森から、ゆっくりと上げました。それからまた、他の足を上げました。それから、自由になったうれしさに、突然、跳ねまわったり、飛び上ったり、踊ったりし始めました。空中どれくらい高く飛び上るものやら見当もつかない位で、また不器用にどんと落ちて来ると、大地がぶるぶるっと震えました。それから――ほう! ほう! ほう!――と笑い出しましたが、それが、あちこちの山々にこだまして、雷のように鳴りひびくので、まるで巨人にそれだけの兄弟があって、みんなで喜んでいるのかと思われるくらいでした。彼の嬉しさが少し静まった時、彼は海の中へ足を踏み入れました。最初の一足《ひとあし》で十マイル、それで脛《すね》の半分どころの深さでした。二足《ふたあし》目も十マイル、その時には、水がちょうど彼の膝の上まで来ました。それから三足《みあし》目で、もう十マイル、すると彼は大方腰の辺までつかりました。これが海の一番深いところでした。
ハーキュリーズは、巨人がまだまだ向うへ進んで行くのをじっと見ていました。というのは、この大きな人間の恰好をしたものが、三十マイル以上も向うの方で、腰まで海の中へはいって、それでもまだ上半身が、まるで遠くの山のように高く、かすんで、青く、見えているのは、実にあきれるばかりだったからです。その大きな姿は、だんだんぼんやりして来て、おしまいには、すっかり見えなくなっ
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