てしまいました。こうなると、ハーキュリーズは、もしもアトラスが海に溺れるとか、ヘスペリディーズの金の林檎をまもっている百の頭をした竜に咬まれて死ぬとかした場合には、どうしたものだろうと、心配になって来ました。もしも何かそうした不幸が起ったら、一体この空という荷物を、どうしておろすことが出来るでしょうか? それに、もうそろそろ、空の重みが、彼の頭と肩とに少々こたえて来たのでした。
『本当にあの気の毒な巨人は可哀そうなものだ、』とハーキュリーズは思いました。『十分間で僕がこんなにひどくくたびれるんだから、千年の間もこうやっていた彼は、どんなにくたびれたことか、思いやられる!』
おう、可愛い小さな君達よ、君達には、われわれの頭の上に、あんなにやんわりと、軽そうに見えているあの青空がどんなに重いものか、見当もつかないでしょう! それにまた、吹荒《ふきすさ》ぶ風、冷《ひ》いやりとした、しめっぽい雲、焼けつくような太陽、といったようなものが、交代でハーキュリーズを苦しめるのだから、たまりません! 彼は、巨人がもう帰って来ないのではないかと心配になって来ました。彼はうらやましそうに、下界を眺めました。そして、こんな目まいがしそうな山の頂上に立って、力一杯に大空をさし上げたりしているよりも、山のふもとで羊飼でもしている方が、ずっと仕合せだということを思い知りました。というのは、勿論、君達にもすぐ分る通り、ハーキュリーズは彼の頭と肩との上に重みを背負っているばかりではなく、心に大変な責任を感じていたからです。だって、もしも彼がじっと立って、空を動かないようにしていないと、おそらくお日様がぐらつき出すでしょう! 或は又、夜になって、沢山のお星様がその座からずり出して、人々の頭の上へ、火の雨のように降って来るでしょう! そして、もしも、彼がその重みでよろめいたがために、空が裂けて、大きな割目《われめ》が端から端まで出来たりしたら、その勇士はどんなに面目ない気がするでしょう!
それから、遠く海の向うの端に、巨人の大きな姿が、雲のように見えて来て、彼が何ともいえないほど嬉しく思うまでに、どれ位の時間がたったか、僕は知りません。とにかく、アトラスはもっと近づいてから、手を上げましたが、ハーキュリーズはその手に、一本の枝に垂れた、南瓜《かぼちゃ》ほどもある、三つの大きな金の林檎を見ました。
『よく帰って来てくれたね、』声が届くほどのところへ巨人が来た時、ハーキュリーズは叫びました。『で、金の林檎を取って来てくれたんだね?』
『そう、そう、』アトラスは答えました、『そして、なかなかいい林檎だよ。ほんとに、わしはあの木になっているうちで、一番立派なのを取って来たんだから。ああ! ヘスペリディーズの庭って、美しい所だ。そう、それから百の頭をした蛇は、誰でも一ぺん見とく値打はあるねえ。何といっても、お前は自分で林檎を取りに行った方がよかったぜ。』
『そんことはどうだっていいよ、』ハーキュリーズは答えました。『君は気持よく散歩して来たんだし、それに僕が行っても同じで、用は足りたんだから。お骨折《ほねおり》ねがって、ほんとうにありがとう。しかし、もう、僕は道も遠いし、かなり急いでもいるし、――それに、僕のいとこの王が金の林檎を待ちかねているしするから、――何とかもういっぺん、僕の肩から空を受取ってもらえまいか?』
『どうも、そいつは、』と、巨人は金のりんごを空中へ二十マイルかそこいら、ぽいとほうり上げてまた落ちて来るところを受けとめながら、言いました、――『そいつは、お前、少しお前の方が無理だと思うんだがね。わしの方がお前よりもずっと早く、お前のいとこの王様のところへ、金の林檎を持って行けはしないかね? 陛下がそんなにお待ちかねなんだから、わしは出来るだけ大股で行くことをお前に約束するよ。それにまた、わしはちょっと今のところ、空を背負込《しょいこ》もうなんて気はないね。』
そこでハーキュリーズは、じれったくなって来て、大きく肩をすぼめました。もうそろそろ暗くなりかかっていたので、その場にいたら、お星様が二つ三つその座からころがり出すのが見えたでしょう。地上の人はみんなびっくりして上を向いて、次には空が落ちて来はしないかと思いました。
『おう、そんなことをしちゃいけない!』巨人アトラスは、大きな声で吼えるように笑って言いました。『わしはこの五百年間にだって、そんなに沢山の星を落っことしはしなかったよ。わしほど長い間そこに立っているうちには、お前も辛抱というものを覚えて来るようになるだろう!』
『なんだと!』ハーキュリーズはひどく腹を立てて叫びました、『君は僕にいつまでも、この重いものを背負《しょ》わしとくつもりか?』
『そのことについちゃ、いずれ日を改めて相談する
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