しないわ。いくらエピミーシウスだって、それ位なことを怒りはしないでしょう。あたしその箱をあけなくともいいんですもの。そして、もしも結び目がほどけたにしても、あのお馬鹿さんにきかないで、開けたりなんぞしちゃ悪いわ。』
こんな風に始終この一つ事ばかりを考えなくともすむように、彼女にちょっとする仕事でもあるとか、何か考えることでもあるとかした方がよかったのでしょう。しかし、世の中に「わざわい」というものが出て来るまでは、子供達は大変気楽に暮らしていたので、ほんとにあまり暇がありすぎたのです。彼等だって、何時《いつ》も何時《いつ》も、花の咲いた灌木の中でかくれんぼをしたり、花環で目かくしをして鬼ごっこをしたり、そのほか地球がまだ新しかったその頃に、もう出来ていたいろんな遊びばかりもしていられませんでした。毎日遊んで暮らしていると、働くことが却って本当の遊びとなります。その頃には、まるですることはなんにもありませんでした。まあ、家の中をちょっと掃いたり、拭いたりする、それから新しい花を切る(それも至るところ、いやになってしまうほど沢山咲いているんです)、そしてそれを花瓶に生ける、――それでもう、可哀そうに、小さなパンドーラの一日の仕事はおしまいです。それからあとは、寝るまで、箱のことが気になるばかりでした。
しかしよく考えて見ると、この箱はまたこの箱なりに、彼女にとっての一つのめぐみでなかったと言い切るわけにも行かないと思います。それは彼女がいろいろと想像をめぐらして考える材料ともなり、また誰か聞いてくれる人がある時には、いつでも話の種ともなったでしょう! 彼女が機嫌のいい時には、その胴のぴかぴかとした艶《つや》や、まわりの美しい顔や葉を彫った立派な縁《ふち》などを見て感心することも出来ました。又、何かのはずみで気がむしゃくしゃした時には、それに一撃をくわせたり、小さな足でじゃけんに蹴飛ばしたりすることも出来ました。そしてこの箱は、幾度も幾度も足蹴《あしげ》にされたのでした(でも、あとで分る通り、この箱は悪い箱でしたから、そうして足蹴にされたりするのが当り前だったのです)。それにしても、もしこの箱がなかったら、何か始終考えていずにはいられない小さなパンドーラは、今みたいに、箱のことで思わず時間がたってしまうというわけにはとても行かず、退屈で困ったことでしょう。
というのは、箱に何がはいっているかと想像して見ることは、実際きりのない仕事でしたから。本当に、何がはいっているんでしょう? 仮に、家の中に大きな箱があったとして、そんな気がするのも、無理はないことだが、クリスマスかお正月にいただく何か新しい、きれいな物がはいっているらしいとなると、どんなに君達は夢中になっていろいろと頭の中で考えて見るか、まあ君達、想像してごらんなさい。君達はパンドーラみたいにそれを知りたがりはしないと思いますか? もしその箱と一しょに、一人きりでおいておかれたら、ちょっと蓋をあけて見たくなったりしないでしょうか? しかし君達はそんなことはしないでしょうね。おう、馬鹿な。とんでもないことだ! ただ、もしも君達がその中におもちゃがはいっていると思ったら、ちょっと一目《ひとめ》のぞいてみる機会をのがすのは大変つらいことでしょう! 僕はパンドーラが、おもちゃなんかをあてにしていたかどうかは知りません。というのは、子供達が住んでいた世界そのものが、一つの大きな遊び道具だったその頃には、まだおもちゃなどは一つも出来ていなかったでしょうから。しかしパンドーラは、その箱の中に何か大変美しい、値打のあるものがはいっているにちがいないと思いました。だから彼女は、ここで僕の話を聞いている小さな女の子たちの誰にも負けないくらいに、ちょっとのぞいて見たくてならない気がしました。いや、どうかすると、もちっとよけいにそんな気がしたかも知れません。しかし、きっとそうだとは僕も言い切れないが。
それにしても、僕達がこうして長いことお話をして来た、この日はまた特別に、彼女の好奇心がいつもより強くなって来て、とうとうその箱に近づいて行きました。彼女は、もし出来たら、その箱をあけてみようと、大方決心していました。どうも、しようのないパンドーラですね!
しかし、最初に、彼女はその箱を持ち上げてみました。それは重かった、パンドーラのような弱い力の子にとっては、まるで重すぎました。彼女はその片端を床から何インチか持ち上げましたが、かなり大きな、どしんという音をたてて、またそれをおろしました。すぐそのあとで、彼女は何だか箱の中でごそごそと動く音がしたように思いました。彼女は出来るだけぴったりと耳をあてて、聴きました。たしかに、中で、何だかぼそぼそとつぶやいているような気がします! それとも、ただ彼女
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