の耳が鳴ってるのでしょうか? 或はまた、彼女の心臓の打つ音でしょうか? パンドーラは本当に何か聞えたのかどうか、自分でもはっきりときめてしまうことが出来ませんでした。しかし、いずれにしても、彼女の好奇心は、いよいよ強くなって来ました。
彼女が頭をもとへ戻した時、彼女の目は、金の紐の結び目にとまりました。
『これを結んだ人は、大変器用な人にちがいないわ、』とパンドーラは一人で言いました。『それでもあたし、それをほどけそうな気がするわ。あたし、せめて、その紐の両はしくらいは見つけなくちゃ。』
そこで彼女はその金の結び目を指につまんで、出来るだけはっきりと、その込み入ったところを調べて見ました。殆どそんなつもりもなく、また何をしようとしているかもはっきりとわきまえないで、彼女はやがて一生けんめいに、それをほどきにかかっていました。そのうちに、明るい日の光が、あけ放した窓から射《さ》し込んで来ました。また、遠くで遊んでいる子供達の楽しそうな声も、それと一しょに、聞えて来ました。そして多分その中にはエピミーシウスの声もまじっていたのでしょう。パンドーラは手を休めて、それに聞き入りました。なんといういいお天気でしょう! もしも彼女が、そんな面倒くさい結び目なんぞうっちゃっておいて、その箱のことなんかもう考えないことにして、彼女の小さな遊び友達のところへ飛んで行って、仲間になって面白く遊んでいたら、その方が利口じゃなかったでしょうか?
しかし、その間もずうっと、彼女の指は半分無意識に、しきりとその結び目をいじっていました。そしてふと、この不思議な箱の蓋についた、花の冠をかぶった顔が目についた時、彼女はそれがずるそうに、彼女にむかって歯をむき出して笑っているのを見たような気がしました。
『あの顔はいじわるそうだこと、』と彼女は思いました。『もしかあたしが悪いことをしてるから笑ってるんじゃないかしら! あたしほんとにもう、逃げ出したくなっちゃった!』
しかしちょうどその時、ほんのちょっとしたはずみで、彼女はその結び目をひねるようにしましたが、それが思いもかけぬ結果になりました。金の紐は、まるで魔法をかけたように、ひとりでほどけてしまって、箱は締物《しめもの》なしになってしまいました。
『こんな変なことって知らないわ!』パンドーラは言いました。『エピミーシウスは何というでしょう? そしてあたし、一体どうしてこれを、もと通りに結べるでしょう?』
彼女は一二度、その結び目をもと通りにしようと、やってみましたが、すぐにそれは彼女の手に合わないということが分りました。それがあんまり、だしぬけにほどけてしまったので、彼女はその紐がお互にどういう風にからみ合せてあったか、少しも思い出すことが出来ませんでした。それからまた、彼女がその結び目の形や様子を思い浮かべようとしても、それがすっかり頭から消えてしまったように思われるのでした。だから、エピミーシウスが帰って来るまで、その箱をそのままにしておくよりほかには、どうにもしようがありませんでした。
『でも、』とパンドーラは言いました、『この紐がほどけているのを彼が見れば、あたしがやったということが分ってしまうわ。でも箱の中は見なかったということを、彼にどういう風にして信じさせたらいいんでしょう?』
それから、彼女の横着《おうちゃく》な小さな胸に、どうせ箱の中を見たと疑われるなら、今すぐ見ておいたって同じことだという考えが浮かびました。おう、ほんとにいけない、ほんとに馬鹿なパンドーラよ! お前は、正しい事はする、間違った事はしないということだけを考えて、お前の遊び仲間のエピミーシウスが言ったり、信じたりすることを気にとめるべきではなかったのだ。そして彼女とて、もしもその箱の蓋についた不思議な顔が、そんなに誘惑するように彼女を見なかったら、そして又、箱の中の小さなつぶやき声が、前よりも一層はっきりと聞えるような気がしなかったら、多分そうしたことでしょう。それが彼女の気のせいかどうかは、彼女にはよく分りませんでした。しかし、彼女の耳には、小さな声でひどく騒いでいるように聞えるのです――それともまた、ささやくのは彼女の好奇心なのでしょうか。
『出して下さい、パンドーラさん――私達をそとへ出して下さい! 私達はあなたにとって、とてもいい、可愛い遊び相手なんですよ! ちょっと私達を出して下さい!』
『あれは何だろう?』とパンドーラは考えました。『箱の中に何か生きたものがいるのかしら? ええ、ままよ! あたしちょっと一ぺんのぞいてやりましょう! ほんの一度だけ、それから蓋をいつもの通り、ちゃんとしめておけばいいんだわ! ちょっと一ぺんのぞいて見るくらいで、別になんの事もある筈がないわ!』
しかしもうそろそろこの辺
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