て得たものよりも、彼の小さな姫の愛情の方が何千倍貴いか知れないと思いました。
『わしの大事な、大事なメアリゴウルドよ!』と彼は叫びました。
 しかしメアリゴウルドの返事はありませんでした。
 ああ、彼は何ということをしてしまったのでしょう! あの見知らぬ人が彼に与えた力は、何とおそろしいものだったのでしょう! マイダスの唇がメアリゴウルドの額に触れたその瞬間に、一つの変化が起ったのです。あんなに深い愛情に満ちていた彼女の可愛い、薔薇色の顔が、きらきらした金色に変り、頬を伝う涙さえそのまま黄色くかたまってしまいました。彼女の美しい鳶色《とびいろ》の巻毛も同じような色になりました。彼女のやわらかい小さなからだは、父の腕に抱かれたまま、固く、しゃちこばってしまいました。おう、何というおそろしい災難でしょう! 彼のきりのないお金に対する欲望の犠牲となって、小さなメアリゴウルドは、最早生きた子供ではなく、黄金の像になってしまったではありませんか!
 そうです、彼女はやさしく、悲しく、気の毒そうに、お父さまどうしたのとでも問いたげな表情のままで、顔が固まってしまったのでした。それはこれまで人間が見たうちで、一番可愛らしく、しかも一番いたましい姿でした。メアリゴウルドの目鼻立や特徴はすべてそのままで、可愛らしい小さな靨《えくぼ》さえ、その金色の頤《あご》に残っていました。しかし、そっくりそのままに似てれば似てるほど、娘の残して行った形見のすべてともいうべきこの黄金像を眺める父の悲しみは大きいのでした。姫が可愛くてならない時にはいつでも、お前はお前の重さだけの金の値打があると言うのが、マイダスの好きなおきまり文句でした。そして今やその文句は、文字通りほんとうになってしまいました。そして遂にもう間に合わない今となって、彼は彼を愛してくれる暖い、やさしい心の方が、天地の間に積み上げることの出来る、どれほどの宝よりも、どんなに貴いか知れないということを、しみじみと感じたのでした。
 いよいよ彼の願いが十分に叶えられた時になって、彼が手を揉み絞って嘆き始めた有様や、メアリゴウルドを正視するにも忍びないし、それかといって彼女から目を離すことも出来なかった彼の心のうちなどを、一々述べていたら、随分と悲しい話になってしまうでしょう。とにかく、彼の目がその像に注《そそ》がれている時のほかは、彼はど
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