の朝飯が出ているのに、その金目《かねめ》のためにこそ、却ってそれがなんにもならないものになっているのです。これでは、本当にその重さだけの金《きん》の値打があるような御馳走を前にしたマイダス王よりも、パン屑と水とですましているような、この上もなく貧乏な労働者の方が、ずっと暮向《くらしむき》がいいということになるわけです。じゃ、どうすればいいんでしょう? 朝飯の時に、もうマイダスは大変お腹《なか》がすいていました。昼御飯までにそれ以上お腹《なか》がすかないわけはありません。すると、晩御飯の時にでもなったら、どんなにがつがつして来るか分りません。しかも、晩御飯とても、きっと今目の前にあるのと同じような不消化な御馳走に違いありません! こうして、金づくめの贅沢な御馳走つづきで、彼が幾日生きて行けると君達は思いますか?
こんなことをいろいろと考えて見ると、さすが欲馬鹿のマイダス王も、心配になって来て、果してお金《かね》さえあればほかになんにも要らないで通せるものかどうか、又いろいろとほしい物のうちでお金が第一のものかどうかさえも疑わしくなって来ました。しかしこんなことは、ちょっと考えて見ただけのことでした。黄金の光に対するマイダスの迷い方と来ては、大変なものでしたので、朝飯のようなつまらないことのために、何でも金にする力を棒に振ってしまう気には、まだまだなれませんでした。そんなことでもしたら、一回分の食膳がどんなに高いものにつくか、まあ考えてもごらんなさい! 少しばかりの川鱒と卵と馬鈴薯とホットケイキとコーヒー一杯とに対して、何百万円も何百万円も、いやその上いつまで数えても数え切れないほどのお金を払うのと同じじゃありませんか?『それじゃ全く高すぎるわい、』とマイダスは思いました。
それにしても、お腹《なか》のすき方はあまりひどいし、全くどうしていいやら分らないので、彼はまた大きな声で、その上たいへん悲しそうに唸りました。可愛いメアリゴウルドは、もうこの上辛抱は出来ませんでした。彼女はちょっとの間父を見つめたまま坐って、一生けんめい小さな頭を絞って、父がどうしたのかを知ろうと努めました。それから、父を慰めようとのやさしい、いじらしい気持から、椅子を立って、マイダスのところへ駆け寄り、かたく彼の膝にすがりつきました。彼は屈み込んで、姫に接吻しました。彼は何でも金にする力によっ
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