》の鉢で、まわりに綺麗な人物が描いてありましたが、それをきらきらした金の鉢にしてしまったのです。
 そのうちにメアリゴウルドが、しぶしぶと扉をあけて、目にエプロンを当てたまま、まだ胸も張り裂けるばかりに泣きじゃくりながらはいって来ました。
『おや、どうしたの、姫や!』とマイダスは叫びました。『このお天気のいい朝に、一体どうしたことじゃ?』
 メアリゴウルドは目にエプロンを当てたまま、手をさし出しましたが、その手にはマイダスが今しがた金にしたばかりの薔薇の一つがありました。
『美事《みごと》じゃ!』と父は叫びました。『してこの大した金《きん》の薔薇の何処が気に入らなくて泣くのかね?』
『ああ、お父さま!』と姫はすすり泣きのうちにも、出来るだけはっきりと答えました。『これ美《うつく》しかあないわ、こんなきたない花ってないわ! あたし着物を着るとすぐに、薔薇を摘もうと思ってお庭へ駆けて行ったのよ。だって、お父さまは薔薇がお好きでしょ、あたしが摘んだのは余計にお好きでしょ。だのに、まあ、まあ! どんなことになっていたと思って? とてもひどいことになっちゃったのよ! あんなにいい匂《にお》いがして、あんなにとりどりのきれいな紅色《べにいろ》をしていた美しい薔薇が、みんな病気になってめちゃめちゃになっちゃったのよ! これ、この通り、みんなまるで黄色くなっちゃって、もう匂いもなんにもないの! 一体どうしたというんでしょうね?』
『なあんだ、わしの可愛い姫や――そんなことで泣くんじゃないよ!』とマイダスは言ったものの、姫をこんなにひどく悲しませた変化を自分の手でおこなったのだと打明けることは、恥ずかしくて出来ませんでした。『坐ってパン入りのミルクをおあがり! 何百年でも保《も》つような、こんな金の薔薇を持ってれば、一日で凋《しぼ》むようなただの薔薇となら、何時でも取換えられるからね。』
『あたしこんな薔薇はいやです!』とメアリゴウルドは叫んで、それを三|文《もん》の値打もないもののように投げ棄てました。『ちっとも匂いはないし、固い花弁が鼻を刺して痛いんだもの!』
 姫はもう食卓についていましたが、黄色くなってしまった薔薇に対する悲しみで心が一杯だったので、彼女の支那鉢の驚くべき変化にも気がつきませんでした。多分その方がずっとよかったのでしょう、というのは、メアリゴウルドは、鉢のまわ
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