たのに、何でもちょっとさわって金にしてしまうというのではなくて、相変らず普通の方法で、わずかな金を掻き集めて行くことに満足しなければならないとしたら、どんなにつまらないでしょう!
その時はまだ明け方のうす暗がりで、東の空の下の方が、ほんの一すじ明るくなっていただけでしたが、マイダスの寝ているところからは、それは見えませんでした。彼は大変がっかりした気持になって、あてがはずれてしまったのをいまいましく思い、だんだん悲しくなるばかりでしたが、そのうちにとうとう朝の最初の日影が窓からさしこんで来て、彼の頭の上の天井を金色に染めました。マイダスには、この黄色い日影が、寝床の白い覆布《おおい》に何だか変な風にうつっているような気がしました。それをもっとよく見て、リンネルの布地が、まるでまじりけのない、きらきらした金の織物のように変っていたことを知った時の彼の驚きと喜びとはどんなだったでしょう! さわれば何でも金になる力が、朝日の光と一しょに、彼に授ったではありませんか!
マイダスは喜びのあまり、気違いのようになって飛び起きました。そして部屋中を駆け廻って、何でもその辺にある物を手当り次第につかみました。彼が寝台の柱の一つをつかむと、それはたちまち丸溝《まるみぞ》のついた金の柱になりました。彼は自分がおこなっている奇蹟を、もっとはっきりと見るために、窓掛を一枚引きよせましたが、窓掛の総《ふさ》がまた手の中で重くなったと思うと――もう金のかたまりになっていました。彼は机から一冊の本を取上げました。ちょっとさわっただけで、その本はわれわれが近頃よく見るような立派な装幀《そうてい》の、金縁《きんぶち》の本みたいになりましたが、指を紙の間に通すと、これはしたり! それは金箔を綴《と》じたようになって、中に書いてあった立派な文句はすっかり見えなくなってしまいました。彼は急《いそ》いで着物を着ました。それがまた金の布地で仕立てた堂々たる衣装に変ったので、彼は夢中になりました。それはいくらかその重みで、荷になるような気がしましたが、地質の柔軟《やわらか》さはもとのままに残っていました。彼は小さなメアリゴウルドが縁取《ふちどり》をしてくれたハンカチを取り出しました。そのハンカチもまた、可愛いメアリゴウルドが手際よく、きれいに縁をずうっと縫ったあとが金糸となってついたまま、金になってしまいま
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