が是非ほしいのだが、メヅサの首ほど姫の気に召すものは外にないのじゃから。』
『はい、おそれながら、』とパーシウスは、落着いて、メヅサ退治くらいは彼ほどの若者にとっては別に大して驚くほどのことでもないといった風に答えました。『私はメヅサの首を、蛇の髪も何もついたままそっくり持参いたしました!』
『それは本当か! どれどれ見せなさい、』とポリデクティーズ王は言いました。『もしも旅人達の言うことがみんな本当だとしたら、それはまことに珍らしい見ものに違いない!』
『仰せの通りにございます、』とパーシウスは答えました。『それは本当に、誰でも一ぺん見たら、もうその方に目を吸いつけられてしまうことは、ほぼ間違いのないものでございます。そして、もしも陛下さえよろしいとお思召すならば、休日をおふれだしになり、陛下の人民を全部お呼び集めになりまして、このすばらしい珍品をお見せ遊ばしてはいかがでございましょう。私が思いまするに、ゴーゴンの首を今までに見た者も、またおそらくこの先二度と見る者もあまりございますまいから!』
 王様は彼の人民が、どうにもならないような怠け者の集まりで、そうした連中の常として、たいへん物見高いということをよく知っていました。そこで彼は若者の意見を容《い》れて、四方にお触役《ふれやく》や使者を送って、街角や市場や、また至る処の四辻で喇叭《らっぱ》を吹かせて、人民を全部宮廷に呼び集めました。そこで、やくざな浮浪者の大群が宮廷さして集まって来ましたが、彼等はみんな、ただ他人《ひと》の不幸をよろこぶ心から、パーシウスがもしもゴーゴン達との勝負で何かひどい目に遇っていたら、うれしがったような人間ばかりでした。もしその島にもっといい人達がいたとしたら(この話にはそんな人達のことはちっとも出て来ないけれども、僕はそんな人もいただろうと本当に思うのですが)、彼等は静かに家に残って、自分の仕事にいそしんだり、子供達の面倒を見たりしていたでしょう。それはとにかく、人民の大部分は一目散に王宮へ駆けつけて、露台《バルコニ》へ近づこうとして夢中になって、互に突飛ばしたり、押したり、かき分けたりし合いました。露台にはパーシウスが現れて、縫取りをした袋を手に持っていました。
 露台が一杯に見える一段高くなった所には、半円形にずらりと列《なら》んだ、悪い顧問官達や、おべっか使いの廷臣達にかこま
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