ってしまうだろうに。それから、隠兜《かくれかぶと》だってさあ! その中に彼がとっぽりとはいれる程の大きさがなくちゃ、どうして兜が彼を見えなくしてしまうことが出来るものかね。それから魔法の袋だって! それはまた何《ど》んな仕掛になってるものやら? いや、いや、他所《よそ》のお人! あたし達はそんな不思議な物のことは一向知りませんよ。お前さんは御自分の眼が二つもあるじゃないか。ところがあたし達には三人に一つしきゃない。お前さんの方が、あたし達のような三人のめくら婆さんよりも、そういったような不思議なものを、よく見つけることが出来ますよ。』
 パーシウスは彼等がこんな風にいうのを聞いて、白髪婆さん達がそのことをなんにも知らないのだと、本当に思いかけました。そして彼等を大変困らしたことが気の毒になって、今少しで彼等の眼を返してやって、それを奪い取った無礼を詫びるところでした。しかしクイックシルヴァが彼の手をおさえました。
『彼等にだまされちゃいけない!』と彼は言いました。『ニンフ達の居処を君に教えることが出来るのは、世界中でこの三人の白髪婆さんだけなんだ。そして、君はそれを知らないでは、蛇の髪をしたメヅサの首を首尾よく討取《うちと》ることは決して出来ない。その眼をしっかりと掴《つか》んでいるんだよ。そうすれば万事うまく行くんだから。』
 後で分ったことですが、クイックシルヴァの言ったことに間違いはありませんでした。眼ほど人間が大切にするものはちょっとありません。それに白髪婆さん達は、もともと三人で六つの眼がある筈のところ、一つしかなかったのですから、それを六つの眼に負けないくらい大切に思っていました。それを取返す方法がほかにないと知って、彼等もとうとうパーシウスに彼の知りたがっていることを教えました。彼等が教えてくれるとすぐに、パーシウスはこの上もなく慇懃《いんぎん》な態度で、その眼を彼等のうちの一人の額にある空《から》っぽの眼窩《めのあな》へはめ込んで、彼等の親切を謝し、彼等に別れを告げました。しかしパーシウスが聞えないほどの遠さまで行かないうちに、彼等はまた新しく喧嘩を始めました。何故かというと、彼等とパーシウスとの間に騒ぎが持上った時に、もう番のすんでいたスケヤクロウに、彼は何の気もなく眼玉をやってしまったからなのでした。
 どうもこの三人の白髪婆さん達は、いつもよく
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