彼の頭の横っちょにも翼が生えているような気がするのでした。尤もパーシウスがまともに振向いて見ると、何もそんなものは目につかないで、ただおかしな帽子をかぶっているだけでしたが。しかしいずれにしても、あの曲りくねった杖が、クイックシルヴァにとって、たいへん大切なものであることは明らかで、そのために彼がこんなに速く歩けるので、たいそう元気な青年であるパーシウスも、だんだん息が切れて来ました。
『さあ!』とクイックシルヴァはとうとう叫びました――というのは、彼も相当人を喰ったもので、パーシウスが彼と歩調を合せて行くのにどんなに難儀しているかということは、ようく知っていたからです――『この杖を持ち給え。わたしよりもずっと君の方が、それが必要だからね。セライファス島には、君よりも足の速い人はいないのかね?』
『僕だって翼の生えた靴さえあれば、相当速く歩けるんですがね、』と、パーシウスはちらっとずるそうに、彼の道連れの足の方に目をやりながら言いました。
『君にも一足《いっそく》心がけておかなくちゃ、』とクイックシルヴァは答えました。
 しかし、さっき貸してもらった杖が、すばらしく彼の歩く助けになったので、パーシウスはもう少しも疲れを覚えなくなりました。実際、その杖は彼の手の中で生きていて、その生命のいくらかを彼に貸してくれるような気がしました。彼とクイックシルヴァとは、今では、仲よくお話をしながら、楽《らく》に旅をつづけました。そしてクイックシルヴァが、彼の今までの冒険談や、いろんな場合に彼の機転がどんなに役に立ったかというような話を、いろいろ沢山してくれたので、パーシウスは彼を実にすばらしい人だと思うようになりました。彼は如何にもよく世間のことを知っていました。そして青年にとっては、そうしたことをよく知っている友達ほどいいものはありません。パーシウスは、だから、いろいろと話を聞いて自分の機転に磨きをかけたいと思って、一層熱心に耳を傾けました。
 そのうちに、ふと彼は、彼等がこれから目指して行く冒険に力を貸してくれる筈になっている姉さんのことを、クイックシルヴァが話していたのを思い出しました。
『その方《かた》は何処にいらっしゃるんです?』と彼は尋ねました。『すぐにはお目にかかれないんでしょうか?』
『正にその時機だという時になったら出て来るよ、』と彼の道連れは言いました。『しか
前へ 次へ
全154ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 幾三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング