しちょっとことわっておくが、わたしのこの姉は、わたしとはまるで性質が違うんだ。彼女は大変真面目で、用心深く、にっこりとすることも少なく、声を立てて笑うなんてことはまるでない。そして何か特別に意味の深いことを言う時のほかは、一言も口をきかないことにしている位だ。その代り、こちらからも、よほど立派なことを言わないと、相手にはしてくれないんだ。』
『これは驚いた!』とパーシウスは叫びました、『僕なんぞはうっかり口をきけませんね。』
『本当に彼女は、実に何でも出来る人なんだ、』とクイックシルヴァはつづけて言いました、『そしてどんな技芸にも学問にも通じている。つまり彼女は、あまり馬鹿馬鹿しくかしこいので、みんなが彼女のことを智恵の化身《けしん》だといってる位だ。しかし、実を云うと、少し元気がなさすぎるので、僕はどうも好きになれない。君だって彼女を、僕のように気持のいい旅の道連れだとは思わないだろうと思う。但し彼女にもいいところはある。そして君も、ゴーゴンと闘《たたか》うについては、そのおかげを蒙ることになるだろう。』
この時にはもうあたりはすっかり薄暗くなっていました。彼等は今や、蓬々《ぼうぼう》とした藪が一面に生え茂って、今まで誰も住んだこともなければ来たこともなさそうな、ひっそりとした、淋しい荒野原《あれのはら》へ来ました。あたりのものすべては、灰色の夕闇の中にもの淋しく、しかもその夕闇が刻々に深くなって行くのでした。パーシウスは何だか悲しくなって、あたりを見まわしながら、まだずっと先へ行くんでしょうかと、クイックシルヴァに尋ねました。
『シッ! シッ!』と彼の道連れは小声で言いました。『騒いじゃいけない。ちょうどこんな時分に、こんな所で、三人の白髪婆さんに遇《あ》うんだ! 君が彼等を見ないうちに、向うから見つけられないように気をつけ給え。というのは、彼等は三人仲間で目が一つしかないけど、それが三人分の目に負けないくらい鋭いんだから。』
『でも、僕達が彼等に出遇った時に、僕はどうすればいいんでしょう?』とパーシウスは訊《き》きました。
クイックシルヴァは、三人の白髪婆さん達が、一つの目でどういう風に間に合わせているかをパーシウスに説明して聞かせました。彼等はいつもそれをお互に、まるで眼鏡みたいにやり取りしているらしいのです。いや、それは片眼鏡といった方がいいかも知れな
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