は妙な帽子をかぶり、手には変に曲りくねった杖を持ち、そして腰には短い、ひどく反《そ》った剣を下げていました。彼はそのからだつきが、常に運動をしていて、跳《と》んだり走ったりすることが上手な人のように、如何にも軽く、活発でした。殊に、その見知らぬ人は、たいへん快活な、抜目《ぬけめ》のない、頼りになりそうな(その上、たしかにちょっといたずららしいところはあるにはあったが)様子をしていたので、パーシウスはその人をじっと見ていると、自分もだんだん元気づいて来るような気がしないではいられませんでした。それに、彼は本当は勇気のある若者だったので、よく考えて見ると何もそんなに気を落すほどのこともなさそうだのに、臆病な小学生のように目に涙をためているところを他人《ひと》に見られて、たいそう恥ずかしい気がしました。そこでパーシウスは涙を拭《ふ》いて、出来るだけ勇ましい顔になって、その見知らぬ人に向って可《か》なり元気に答えました。
『僕はそんなに悲しんではいません、』と彼は言いました、『ただ僕が引受けた冒険について考え込んでいただけです。』
『おほう!』とその見知らぬ人は答えました。『まあいいから、わたしにすっかりその話をしてごらん、そうすれば、わたしが君の力になって上げられるかも知れない。わたしは今までに、沢山の若者を助けて、やって見ないうちは随分とむずかしそうに見えた冒険を仕遂げさせたこともあるんだから。多分君はわたしのことを聞いたことがあるだろう。わたしには、いろんな名前がある。しかしクイックシルヴァという名前が、他のどれよりもわたしに適している。まあ、君の心配事をわたしに聞かせなさい。そうすれば、二人でよく相談して、何かうまい方法が見つかるかも知れない。』
 その見知らぬ人の言葉と態度とが、パーシウスを、まるで前とは打って変った気持にしました。彼はどうせ今までよりも悪いことになりっこはないし、それにどうかすると、この新しい友達が、結局大変よかったというようなことになりそうな、何かいい智恵でも貸してくれそうな気がしたので、彼の心配事をすっかりクイックシルヴァに話してしまうことにきめました。そこで彼は、かいつまんで、ありのままに事情を打明けました、――つまり、ポリデクティーズ王が、美しいヒポデイミヤ姫に対する婚礼の贈物として、蛇の髪をしたメヅサの首をほしがっていること、それから彼
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