です。というのは、これらの恐しいゴーゴン達の何よりこわいところは、もしわれわれ無力な人間が、彼等の顔をまともに見つめでもしようものなら、間違いなく、温い肉と血とが、たちまち冷たい、死んだ石になってしまうということでした。
だから、君達にもすぐ分る通り、悪い王様ポリデクティーズが、この罪もない若者のために考え出したことは、とてもあぶない冒険だったのです。パーシウス自身も、そのことをよく考えてみると、彼がそれを無事に切り抜けて来るという見込みはほとんど立たず、蛇の髪をしたメヅサの首を持って帰って来るよりも、寧《むし》ろ石仏になってしまう心配の方が、ずっと多そうな気がしないではいられませんでした。というのは、他のいろんな困難は言うに及ばず、ここに、パーシウスよりも年取った人でも、それをどう突破していいか分らなくなってしまうような困難が一つあったからです。彼は単にこの金の翼、鉄のうろこ、長い牙、真鍮の爪、蛇の髪などを有《も》った怪物と闘《たたか》わなければならないというだけではなく、目を閉じたままか、或は少なくとも、現に闘っている相手を殆《ほとん》どちらっと見ることもしないで斃《たお》さなければなりません。でないと、打ちかかろうとして腕を上げている間に石になってしまって、その腕を上げたままの姿勢で、年月と風雨とが彼をすっかりぼろぼろにしてしまうまで、何百年でも立っているようなことになるでしょう。これは、輝かしく美しいこの世界で、彼のようにこれから沢山の手柄もたて、いろいろいい目にも会いたいと思っている青年の上に起るにしては、あまりにも悲しいことです。
こんなことを考えると、たいへん悲しくなって来て、彼は、やりましょうと引受けたことを、お母さんにお話しするに忍びませんでした。そこで彼は、盾を取り、剣をつけて、島から本土へと渡りましたが、淋しい所に一人で坐ってこぼれて来る涙を抑えかねました。
しかし、彼がこうして悲しい気持でいると、すぐ傍《そば》で声がしました。
『パーシウス、』とその声は言いました、『何故お前は悲しんでいるのだ?』
彼は伏せていた顔を、手から上げました。ところがどうでしょう、パーシウスが自分一人だけだと思っていたのに、この淋しい所に一人の見知らぬ人がいたのです。それは元気そうな、才智ありげな、そしてとても利口そうな顔附をした青年で、肩に外套をかけ、頭に
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