間、長野の町の女學校の生徒が、姙娠のからだを此處に捨てた。摺鉢形になつてゐるので、底の火の中迄落ちて行かずに、中途の岩に引かゝつて、何時迄も白い足が二本むき出しになつて見えたさうだ。
雲を破つて日が登つた。もくもくと湧く白雲の海の向うに、はつきりと富士山が見えた。岩のかげから、拍手が起つた。吾々より後から小屋に來て、先に出た連中だつた。
くだりは早く、かけ足で天狗の露地といふところ迄下りた。其處には草花が咲き亂れてゐた。露に濡れてゐる地梨の紅い實や、こんまらつぱじきと呼ばれる黒い實を摘んで喰つた。
小屋迄戻ると、昨夜の若衆達は、木を削つたり壁を塗つたり、せつせと働いてゐた。
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淺間山から鬼が尻出して
鎌でかつ切るやうな屁をたれた
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と怒鳴つてゐる奴があつた。
夜中で氣が付かなかつたが、小屋の前にはもう一つちひさい小屋があつた。樵夫の親子が住んでゐるのださうで、十八九の娘がゐた。特別の村の者なので、同じ小屋には住まないのださうだ。新しい手拭を姐さんかぶりにした可愛らしい娘だつた。昨夜爐邊で若衆達が、どうしても五六日中に何とかしてしま
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