だ。友達は直に身構へた。銃聲が山に響いてこだました。傷ついた鳩は少しさきの豆畑に落ちた。
 だらだら登の松原にかゝつた。林中で夕陽を見た。風が止んで、蟲の音がしげくなつた。林はいつか落葉松に變つた。枝も葉も細かく隙間の無い林と林の間の防火線を行くのだ。時々|足下《あしもと》から兎があらはれて、又草にかくれた。日が暮れて提灯をつけた。歩いてゐると暑いが、足をやすめると寒い。私は何處かで、小錢の入つてゐる蟇口を落した。
 道は次第に急になつて、杖の力による事が多くなつた。時時流にかけた丸木橋を渡つた。三時間の後、山の三分の二の位置にあるといふ小屋に着いた。
「お疲れ。」
 といひながら友達が先に入つた。此の小屋はその年はじめて出來たもので、まだ大工や屋根屋や樵夫《きこり》がゐた。みんないつぱい機嫌だつた。
 爐ばたで、持つて行つた握飯を喰つた。榾《ほだ》の烟が目にしみて、だらしなく涙がこぼれた。腹がはると眠くなつた。山の上は五十五六度だといふ。毛布をかぶつて横になつたが、私は眠れなかつた。寒さと蚤のためだ。それなのに外の者はみんな樂々と眠つてしまつた。誰だか、しきりにおならをした。
 二時
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