生の四つに分《わけ》られてゐるもので此の四つしかねえだから、そこ迄考へてみれば何の不思議もねえ、わけのねえ事ですわなあ。で、すべて血のあるものには骨がある。骨のねえものには血がねえと、かうきまつたものだ。それ、みゝずには血がねえ、骨がねえ。あの海にゐる海鼠《なまこ》でごわしたかなあ、あいつなぞも血がねえ、骨がねえ。」
和尚の話は何時迄も盡きなかつた。淺間山には天狗(てんごと發音する)が住んでゐて、現に自分も若い時に見た事、近頃もゐるにはゐるが、あまり里には出て來なくなつた事などを、一人ではなし、一人でうなづいて倦きなかつた。面白いには面白いのだが、面白過ぎて參つてしまつた。しまひには逃出すやうに辭去した。
その日の夕方登山の支度をして出た。友達も私も單衣一枚で、草鞋を穿き、落葉松《からまつ》の杖をついた。友達は杖銃[#「杖銃」はママ]を肩にかけた。下男の孝治さんといふのが、今夜と翌朝の食料と毛布を一包にして背負つた。おあつらへのちぐさ色の股引に縞のぬのこを着て、腰には大きな烟草入をぶらさげてゐた。
山は荒《あれ》氣味で、吹|下《おろ》す風が強かつた。道ばたの蕎麥の畑から山鳩が飛ん
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