りにお鶴がほめる時は微《かす》かに反感を懐《いだ》いた。
「平生《ふだん》着馴《きな》れた振袖《ふりそで》から、髷《まげ》も島田に由井ヶ浜、女に化けて美人局《つつもたせ》……。ねえ坊ちゃん。梅之助が一番でしょう」
と言ってお鶴は例のように頬を付ける。私は人前の気恥かしさに、
「梅之助なんか厭だい」
と言うのだった。実際連中は、お鶴がいつも私を抱いているので面白ずくによく戯弄《からか》った。
「お鶴さんは坊ちゃんに惚《ほ》れてるよ」
私は何かしら真赤になってお鶴の膝を抜け出ようとするとお鶴はわざと力を入れて抱き締める。
「そうですねえ。私の旦那様だもの。皆焼いてるんだよ」
「嘘《うそ》だい嘘だい」
足をばたばた[#「ばたばた」に傍点]やりながら擦《す》り付ける頬を打とうとする、その手を取ってお鶴はチュッと音をさせて唇《くちびる》に吸う。
「アアア、私は坊ちゃんに嫌われてしまった」
さも落胆《がっかり》したように言うのであった。
やがて今日も坂上にのみ残って薄明《うすらあかり》も坂下から次第に暮れ初めると誰からともなく口々に、
「夕焼け小焼け、明日天気になあれ」
と子供らは歌
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