く》の間――もう少し押切つていへば、久保田君の第一集、「淺草」の出る頃迄の久保田君は、極めて他所行《よそゆき》の久保田君だつたのかもしれないが、それにしても今日の久保田君には、その他所行の沈着さへ失はれ盡したやうに思はれる。
「君は變つた。ほんとに變つた。」
 といふと、
「さうかしら、自分ではちつとも變らないつもりなんだけれど。」
 と久保田君はその癖で――隨分小汚ない癖だが――長く延ばした髮の毛を撫であげ撫であげ、いぶかしさうに云ひながら、その實變つた事を承認し、且變つた事をほこりとする色さへ浮べるのである。自分はそれを見ると屡々腹が立つて來る。
 第一久保田君には頼母しいところがなくなつた。怖ろしく出たらめで、あてにならない。安受合で、ちやらつぽこだ。世の中を知り盡したやうなおちつきがなくなつて、何もわけのわからない半可通らしく見えて來た。人の後にひかへめ勝だつたのが、出ないでもいい處にまで無闇に乘出して馳※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて居る。焦躁、性急、浮調子になり切つてしまつた。
 その以前同人が寄集ると、
「久保田つて人はおとなしい人だね。あれは叔父さん見たい
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