貝殼追放
購書美談
水上瀧太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)救ふ可《べか》らざる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]――「三田文學」大正七年八月號
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いら/\
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吾々の時代の多過ぎる程多數の作家の中で、古典として尊重せらるべき作品を後世に殘す人が幾人あるかを想ふ度に、自分は自分自身をも含ませてなさけ無い心持になるのを禁じる事が出來無い。
十數年前、文藝上の新しい主義が海外から移入された頃、その主義宣傳の運動に携はつた者は、政黨政派の爭のやうに黨同伐異を事としたが、年月がたつて彌次馬に特有の興奮状態から覺醒した時、初めて彼等は自分達の値うちを意識し、或は意識させられた。或者は生れ故郷の土臭い田舍に歸り、或者は偉大なる都市の包容力を幸にして何處かに影を潛めてしまつた。近く更に新しい主義を提唱した一派は、投書家相手の雜誌に擔がれて、精神に異状を呈した者の屡々經驗する喜悦の極、足は地上を離れて天へも昇るやうな有頂天の心状に陷り、自
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