貝殼追放
「幻の繪馬」の作者
水上瀧太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)何時《いつ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]――「中央文學」大正六年五月號
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「幻の繪馬」讀後の感想是非とも申述度存居候ひし處、先頃來健康勝れず臥床勝にて到底期日迄に書上げ候事覺束なく被存候まゝ、乍殘念今囘は御斷り申上候。事情右の如くに候間不惡思召被下度候。
 今日小説の作家その數極めて多しと雖古典として作品の千歳に殘るべき人は僅かに二三人にとどまる事と存候が、泉鏡花先生の御作のみは何時《いつ》の世に至りても紫式部清少納言近松西鶴等の作品と共に不朽なるべき事些も疑ひ無之候。
 乍併《しかしながら》先生の御作の尊きはその豐富なる想像によりて編まれたる變化極まり無き物語の筋にはあらず、その色彩に富む繪畫的文章の妙にもあらず、實に先生の描き出す作中の人々の持つ人間至純の感情に他ならず候。換言すれば先生御自身の純粹なる感情の故に御座候。
 傳へ聞くところによれば故夏目漱石先生は現代作家中の第一人者として泉先生を擧げたる由。天才は天
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