と思ふ。
 大正五年十月二十七日發行の保險銀行時報といふ新聞には、二つの異なる記事として自分の事を材料とした捏造記事が出てゐる。記者はさも消息通らしい筆つきで書いてゐるのが寧ろ氣の毒な程愛嬌であるけれども、書かれた者にとつては、矢張り憎む可き記事であつた。
 第一は「保險ロマンス」といふ題下に「此父にして此子」といふ標題で、例の廢嫡云々が噂に上つてゐる。その記事によると或人が例の廢嫡問題を、我父に質問したといふのである。如何に父の齡は傾いたと雖も自分の四男を嫡男だと思ひ違へるわけが無い。然るに此の記事によると、父も亦その問題を事實起り得るものとして返答をしてゐるのである。記事の捏造である事は敢て論ずる迄もあるまい。
 もう一つは「閑話茶談」といふ題で、身に覺えの無い艶種である。「三田派の新しい文士に水上瀧太郎といふのがある。それにカフヱ・プランタンの(春の女)と(秋の女)が競爭でラヴしてゐたことなどは文壇では夙に誰も知りつくしてゐたが一般の世間はまだ餘り知つてゐない」といふ冒頭で、同じく廢嫡問題に言及し、最後に「それにつけても餘計なことだが、彼《あ》の派手な華やかな明るい感じを持つた(
前へ 次へ
全27ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水上 滝太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング