。ただ残つた問題は奥田の裏書である。奥田の意嚮を確めもしないで白川や戸畑に松村が承諾の意思を洩らしたことが奥田の反感を招いたらしい。事業は屹度成功する、貸金には担保がある。戸畑に対する責任は手形の振出人たる信托会社と裏書人たる松村個人とがある。奥田に迷惑をかけることは決してない。僅か五万ばかりの金で、この松村がどうなるものか。彼れ松村はかくの如く思つて、奥田の裏書の責任を軽視した。一言云へばすぐにも奥田は承知するであらうと高を括つて松村は、白川に調金を奔走させて居た。金は出来た、借手の方もきめた、いざとなると奥田の態度がはつきりしない。どこまでも厭だと云ひ切りもしないが快く裏書をしさうな様子もない。
 松村は給仕に支配人の桑野を呼びにやつた後で、ちよつきのかくしから用箋に書いた書付を取出して、一通り読みかへして見た。書斎の机の上で、今朝出掛に有合せの赤いんきで書いた覚書である。と人の来た気勢《けはひ》がしたので彼は首をあげて入口を見やつた。桑野が来たのである。それに、も一人桑野のあとからはひつて来たものは白川弁護士であつた。松村は白川の顔を見るとふつと「いやだ」と云ふ気が注した。
 彼
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