《し》ませることも出来ない。小さい我を張通して断然彼の力を藉ると云ふ事のすべてを撤回してしまふか、或は何事も大呑込に呑込んでしらじらしく彼に喰ひ入つて行くか。自分にはこの二つの途しか行く処が無いのである。
「どうでもいいさ。結局。」白川は苛《いらだ》たしげにかう云つた。
「屹度やらせませう。ここは我慢のしどころですよ。さつき貴方が切込んだとき、大将の頭にぴゆつと来たやうでした。あれで腹の強い人ですから外見にはなかなか見せないが、余程苦しさうでしたよ。いや、時にね……。」
 桑野は火鉢の前に手をかざして、背を丸くしながら、少し声を細めて、
「妙な相談を持ちかけられて、僕あ思案にあまつて居ることがあるんです。」
「なんだい。大将がか。」
「いいえ。大将ぢやないんです。若いのが……。」
「細君。」
「さうです。どうせ貴方の智慧を借りたいと思つて居ましたがね。」
「どうしたんだ。」
「いやね、あの……。まあ大将が少し考へればいいんですよ。いつだつて十二時前にや帰りやしないんですからな。」
「まだ遊ぶんかねえ。先日なんだぜ『もうつまらないから止めたよ。しかしなあ、段段こすくなつてくるわあね。人の
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