。自分のこれほどの熱心がまだ松村を動かすに足らないのであらうか。自分からいくら隔を除《と》つて向つて行つても、彼はやはり利害の友としか見てくれないのであらうか。さつき話をして居る間でも、自分と彼との地位が著しく懸けはなれて居て、自分は始から終まで圧迫され器械視されて居た様な気持がする。自分と彼とはそれほどに違はなければならない地位であらうか。彼から養家の財産をとり除いてしまへば、彼はむしろ自分の下位に立つべき人物ではあるまいか。彼に金の勢が添はつて居る計りに、自分からしてが、いくらか彼を上に見ると云ふ卑屈な心にもなり、彼からは大に低く見下ろすと云ふ高慢な心にもなるんだ。一度下手に出てしまへばどこまでも押し潰されてしまふ。潰されたままにたいした憤慨もせずに平伏してゐざりよる。これが男の面目の堪へ得る処であらうか。彼から見れば自分は何でもない。此儲話が成否何れにかきまりがつけば自分は又関係の無いものとなり、彼からは全く用のない人間として取扱はれるのであらう。さればと云つて今自分がどんな反抗的計画を企てたところで、彼を痛い目に合はすことも出来ず「白川を優遇しなければならなかつたんだ」と思ひ染
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