た。
「初まつて居るのだぜ。ずつと前にござらつしやい。」
燭台の灯《ともしび》と彼女の姿との間に大きな影があつて戸口は薄くらがりになつて居た。その影になつて居た老人が少しく体をねぢつた。明りは何ものの遮りもなく彼女の横顔に光をさしつけた。
「儀平とこのかか[#「かか」に傍点]だないか。」
おつかさま[#「おつかさま」に傍点]は、半ば驚き半ば怪んだ。
「はい。」彼女はたつた一言を云ひ得たきりであつた。
このあとをどう云つていゝかおつかさま[#「おつかさま」に傍点]にもわからなくなつて来た。村の人々もこの思ひがけない出来事に肝を潰して、挨拶の仕方もないやうであつた。お説教がやがて続き出したのをいゝしほ[#「しほ」に傍点]だとも思つたらしく、みんながもとの様に正面向《まとも》に身体を直した。大きな影が再び彼女と灯との間を遮つた。
「おれもお聴聞《ちやうもん》に来ました。」
暗い蔭から死ぬやうな声で彼は云つた。
「かかあ[#「かかあ」に傍点]。前へ出らしやい。」
一番近くに居た姉様《あねさま》は、姑《しうとめ》の心を測りかねたが、取りなしをするつもりで、
「そこは入口だがなう。もつと
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