共と一しよに野良に働いた。屑綿を前垂に一杯位貰つて行くことは毎日の様であり、籠から下ろすとき折れた大根なども沢山家へもつてかへつた。刈上祝《かりあげいはひ》の餠搗の相どりをしたあとで、大きな福手餠《ふくてもち》を子供に貰つてやつたら、彼等は目を丸くして喜び勇んだこともあつた。小作米が蔵《くら》に運ばれて、扉前《とまえ》で桝を入れる。夕方跡を掃くと一合位は砂に交つた溢米《こぼれまい》が彼の所得となつた。さもしいと云はれたつてそれやこれやで一冬は楽にすごすことも出来た。彼は思ひ返して見て、闇の中で独りでに心の勇むのを感じた。
 台所口の戸を明けて、のつそりと彼は親様の家へはひつた、大きな釜場につゞいて深く切つた爐がある。去年からの女中が一人柴を焚いて湯を沸して居る。ランプが一つ中の梁から釣り下げられて手のやつと届く程の処に光つて居る。一寸見たつて顔色がはつきり分らない。女中はすかすやうにして彼を見つめた。そして
「おや、まあ。」圧《おさ》へつけた様な声で呟いた。そしてせつせと柴を折りくべる方に気を取られた振りをしたなり、
「儀平どんのかゝさあ。」かう云つたが、あとを云ふべき辞を知らないで、
前へ 次へ
全35ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング