た。それから良人を縛つてえらさうな顔をして居た巡査が憎くらしく、五本足の犬の見世物でも見るやうに、あの日の良人の廻りにより集つた村の人々が忌々しかつた。もつと/\考へて見ると、盗まれ主の親様の、土蔵の白壁が一番悪いんだとも思はれて来る。それでなくつても、食物がほしい、着ものがほしい、厚い蒲団がほしいと、物心ついてから四十二の今日まで、人のものを羨むと云ふことにのみあこがれて来た彼の眼には、あの白壁の中にどんな和《やはらか》い、どんなに美しい、見ただけで胸がわくわくするやうな、珍しい反物や珠玉《しゆぎよく》が蔵《しま》つてあるだらうか、それが一一手に取つて見えるやうにも感ぜられるのであつた。そこで他人のものを盗み取つた良人の行為は、決していゝことであるとは思へないが、そんなに憎々しいことを云はないでも、少しは憐れだと云ふ同情《おもひやり》があつたつてよさ相なもであるとも云つて見たい。
「ほんとにまあ、畜生が。」
 家宅捜索の日に、自分を刎ね飛ばして、穴蔵から、赤縞《あかじま》双子《ふたこ》の解皮《ときかは》が一反、黒繻子の帯も、之も解き放した片側が一本出てきたとき、あの親様のおつか様が恐
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