かしはで》もうつた。長いこと礼拝をした。やがて暗い穴の中へ杓子を入れて砂を三杯ほど紙袋につめた。
「なにするんだい、」と私が問うた。
「これですか。お砂を戴いて行きますの。之を庭先にまいておきますの、商売繁昌のおまじなひに。」
 それから本堂の前へ出た。そこにもお糸さんはお参りをした。私達も引きつけられたやうになつて、真実心でお参りをした。
「お土産《みやげ》は。」
「もう沢山ですわ。いろいろ有難うござりました、」と云つて二歩三歩お糸さんはあるいたが、
「今夜いらつしやらないの、」と云つた。
「ああ、病人だからね。」
「さうでしたわねえ。ぢやしつれいします。どうぞお近いうちに。」
 私達は赤い大きな鳥居の傍で、お糸さんの小走りで帰つて行く後姿を見送つた。
[#地から1字上げ](明治四五・六・八―一〇稿/「スバル」明治四五・七/『畜生道』所収)



底本:「定本 平出修集」春秋社
   1965(昭和40)年6月15日発行
※底本のルビは片仮名で表記されていますが、外来語を除きすべて平仮名に直して入力しました。
※作品末の執筆時期、初出、初収録本などに関する情報は、底本では、「/」にあ
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