だおわるさうね。お困りですことねえ。」
「こんないい人が、こんな病気になるつてのは実に天道様《てんたうさま》もひどいよ。」
「全くねえ。どこがお悪くいらつしやいますんです。」
「ここの辺だ、」と種田君は腰のまはりを撫でて、
「腰がふらふらするのでね。」
「まあ、どうしてそんな御病気に。」
「道楽の報《むく》いさ。」種田君は笑ひ乍ら云つた。
「貴方にそんなことがあるもんですか。ねえ栗村さん。それはさうと少しはおあつたかくなりましたの。」
「大きに。お蔭で、結構、結構。すつかりいい気分になつた。おもちやさんでも呼んで貰はうか。」
「およろしいんですか。そんなことをなすつても。」
「おもちやが来たつて、口説《くど》くと云ふ訳ぢやないぢやないか。」
「あら、さうでしたわねえ、」とお糸さんは、立つて膳を運ぶやら、寂しいから景気づけにと銚子を一本もつてくるやらして居た。間もなくおもちやが来た。
「いよう。」種田君はこの大人《おとな》びた女の姿を好奇の目で迎へた。
「いやよそんなに、あたしの顔ばつかり見ていらしつて。」
「別嬪《べつぴん》になつたねえ。」間延《まのび》の口調がいかにも誇張のない驚きを
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