すぐもどつてきますからね。」
「え、え、私でできますことはなんでもしますから。」とお上さんはきさくに云つて、
「それでは車を呼んで來ませう。」と草履《ざうり》をぱたぱたさせて出て行つた。
「貴方、彌々《いよ/\》お別れですわ。」と女はしみじみした調子で云つた。
「……。」男は答が喉につかへて出ないのであつた。そしてまじまじと女の樣子を見つめて、その冷靜な態度に比して自分の見苦しさを恥かしいと思つた。
「御無理をなさらないやうにねえ。」女はまだものを云ふ事が出來た。
「私よりも貴方の事だ。生は尊《たつと》いものですよ。」
亨一はやつとこれ丈を云つた。
「有難うございます。私は私で精進しますから。」
「私は今は、云ふ事が澤山ありすぎて、却《かへ》つて云はれません。何れ手紙で云ひます。あとからすぐ。」
「いいえ、いけません。手紙はよこして下さいませんやうに願ひます、」
「それはあんまり冷酷でせう。」
「決して、そんな譯ではないのです。私、貴方の手紙を見たら、その手紙でまた氣が狂ひます。此上私は苦悶を重ねたくはないのですから。」
「さうですか。ぢや手紙も書きますまい。」男は此|詞《ことば》の
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