の辛抱が一日つづくか、三日つづくか。まあやらせて見て下さいな。私が居なくなつて、貴方のお心もどうなりますか、それも私は見たいと思ひます。」
「ぢや貴方は全く計畫を抛つたのですか。」
「ええ。爲方《しかた》がありません。私は貴方を助けなきやなりませんもの。これで私の心が分るでせう。之からまだ段々分つて來ます。さうしたら貴方は、かはいさうだと思つて下さるでせう。ねえ。」
泣くのではない、泣くのではない。泣けば決心が鈍《にぶ》ると、女は一生懸命に堪《こら》へて居たが、こみ上げて來る悲痛の涙は、もう胸一杯になつて居た。女はそれをまぎらす爲に、ついと立つて縁端へ出た。
目の下の百姓家からはいくすぢとなく煙があがつてゐる。山の裾から部落の森の間をうねうねして谷川が流れてゐる。そのこちらの方の岸にそつた街道の中程の一軒家から母親らしい女がつとあらはれて、大きく手招ぎをした。何かが鳴つて居ると云ふ姿であつた。その貌《かほ》の向いた方の少し先の畑で、子供が一人|踞《しやが》んで居たがやがて女の方へ走り出した。夕日はもう裏手の山へかくれて居た。向の山は頂が少しあかるいばかり、全體が黒ずんで來た。
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