のは勢である。「かうしては居られない。」「進むべき道は死を賭した一事である。」こんな雰圍氣が、すず子を深くつつんだ。ある夜すず子が自分にあることを囁いた。自分はその當時それを諌止することをし得ない程、自分自らが剋殺《こくさつ》の感じに滿ちて居たのであつた。
 その時の自分の態度が曖昧《あいまい》であつたのをすず子は賛同したんだと思つた。それも無理がない。實際に自分は暗《あん》に慫慂《しようよう》したやうな態度を示して居たからである。それから三阪に對しても、多田に對しても、同じ樣な應答をして居つた。三人はいつの間にか共通の意志を作つたらしい。それも自分には分つて居つたが、自分は何とも云はなかつた。
 すべて自分である。戰慄すべき慘禍の※[#「酉+饂のつくり」、第3水準1−92−88]釀者《うんぢやうしや》は自分である。自分は其|責《せめ》を負はなければならない。進んで身を渦中に投ずるか。退いて原因力を打ち斷《き》つてしまふか。自分はこの二つの何れかを擇ばなければならない。

 爪先上りの緩い傾斜を作つて山は南の方へ延びて居る。斜面には雜木一本生えてない。鋏をいれたかとも思はれる樣な丈の揃
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